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吉川市の農業と特産品 — 早稲米・吉川ねぎ・なまず養殖

machi-now編集部|公開 2026-07-25

吉川市の農業の全体像

埼玉県東部に位置する吉川市は、東に江戸川、西に中川(および元荒川や古利根川)という一級河川に挟まれた沖積平野・中川低地に位置しています。周囲を川に囲まれた地理的条件から、古くから豊富な水資源と肥沃な堆積土壌を生かした農業、とりわけ稲作を中心に発展してきた地域です。

農林水産省の公表データ(令和6年面積調査)によると、吉川市の総耕地面積は1,180haです。その内訳は、田が987ha畑が193haとなっており、全耕地面積の約83.6%を田が占める典型的な水田農業地域であることがわかります。

また、農林水産省が実施した「2020年農林業センサス」によると、吉川市の農家数および経営体のデータは以下の通りです。

  • 総農家数: 595戸
    • 販売農家数: 408戸
    • 自給的農家数: 187戸
  • 農業経営体数: 411経営体

吉川市の農業の歴史的背景には、低地特有の環境が深く関わっています。江戸時代初期、幕府による利根川・荒川の東遷事業や新田開発(三輪野江新田など)にともない、中川低地の湿地帯が開墾されました。この地域は水運と農業利水の恩恵を受ける一方で、台風や秋の長雨による水害のリスクと常に背中合わせでした。そのため、増水や水害の危険が高まる本格的な秋を前に収穫を終えられる「早稲米(わせまい)」の栽培が定着し、地域独自の水田農業構造が形成されていきました。現在でも主層となる三輪野江地区や旭地区などの平野部を中心に、美しい田園風景が広がる地域が維持されています。

米(早稲米の伝統とブランド米)

吉川市は、埼玉県内でも有数の「早稲米(早場米)」の伝統を誇る地域です。中川低地の水害を回避するという歴史的背景から育まれた早稲米の栽培は、関東地方でもいち早く新米を出荷できる強みとして長年評価されてきました。

現在、吉川市内で栽培されている主な米の品種には以下のようなものがあります。

  • コシヒカリ: 食味に優れ、全国的にも認知度が高い主力品種。
  • 彩のきずな: 埼玉県が開発した奨励品種で、病害虫や高温に強く、もっちりとした食感と甘みが特徴。
  • 彩のきらめき: さわやかな食味で業務用・家庭用ともに親しまれている埼玉県産品種。

吉川市およびJAさいかつ(さいかつ農業協同組合)管内では、米の付加価値向上を目指したブランド化が進められています。その代表例が、吉川産特別栽培米コシヒカリを厳選した「吉川のしずく」です。農薬や化学肥料の使用を低減して栽培された安全・安心な米として指定され、PRが行われています。

また、吉川市で収穫された米は主食用として出荷されるだけでなく、地元の地場産業である草加煎餅に連なる「せんべい」の原料米や、地酒(日本酒)の醸造用米としても幅広く活用されており、地域の食文化の根幹を支えています。

野菜・果樹(吉川ねぎ・小松菜・枝豆など)

吉川市は水田農業だけでなく、都市近郊農業の強みを生かした野菜栽培も非常に盛んです。特に白ねぎや葉物野菜において全国的な評価を得ている品目があります。

吉川ねぎ

吉川市を代表する最重要ブランド野菜が「吉川ねぎ」です。明治時代初期頃から栽培が始まったとされ、埼玉県内でも数少ない「夏ねぎ」の指定産地となっています。 吉川ねぎの特徴は以下の点にあります。

  • 品質と構造: 葉の巻きが非常に密でしっかり詰まっているため、包丁を入れても崩れにくく、調理時に「煮崩れしない」という強い特長を持ちます。
  • 食味: 白身(軟白部)が柔らかく、火を通すことでねぎ特有の甘みが一段と引き立ちます。
  • 評価: すき焼きや鍋物、ねぎ料理の専門業者からも一目置かれており、「深谷ねぎ」「越谷ねぎ」と並び、埼玉県の三大ブランドねぎの一つとして数えられています。

小松菜・枝豆・その他の品目

埼玉県は全国トップクラスの小松菜生産量を誇りますが、吉川市を含む県東部地域はその中核を担う生産エリアです。 市内ではパイプハウス栽培や露地栽培を組み合わせ、年間を通じて新鮮な小松菜が都心市場や地元向けに出荷されています。

また、夏の味覚として枝豆の栽培も盛んであり、香りの高い茶豆系の品種などを含め、高品質な枝豆が生産されています。 その他にも、以下のような多種多様な農産物が栽培されています。

  • 野菜: トマト、ブロッコリー、長ネギ、レタス、キュウリ、ナスなど
  • 果樹・観光農業: 大規模な果樹園地帯は少ないものの、市内の農家による観光イチゴ園やイチジク栽培など、地域密着型の生産が行われています。

なまず養殖(「なまずの里」の由来と食用なまず養殖)

吉川市は全国的にも珍しい「なまずの里」として知られています。このキャッチフレーズの背景には、地域の歴史的食文化と、近年の技術的取り組みが深く関係しています。

「なまずの里」の由来

吉川市は東の江戸川と西の中川に挟まれた「川のまち」であり、江戸時代には中川の水運を利用した大川岸(河岸)として栄えました。多くの人や物資が行き交う宿場・河岸には料亭や旅籠が立ち並び、川魚料理が名物となりました。当時から「吉川に来て、なまず、うなぎ食わずなかれ」と称されるほど、なまず料理は吉川の代名詞でした。また、かつては市内の小川や用水路に多くの天然な生息し、子どもの遊び相手や身近なタンパク源として親しまれていた歴史があります。

食用なまず養殖の経緯

昭和の高度経済成長期以降、河川改修や都市化の影響により、市内で獲れる天然のなまずは急激に減少しました。この伝統的な食文化と地域のシンボルを守り直すため、吉川市では平成7年(1995年)頃から「なまずの里」としてのまちおこしが本格化しました。

その一環として、平成8年(1996年)、市内の農業生産者らで構成される農事組合法人 吉川受託協会が食用なまずの人工養殖事業に着手し、成功させました。

  • 養殖の特徴: なまずは泥臭いイメージを持たれがちですが、吉川の養殖なまずはきれいな井戸水(地下水)を使用して飼育されています。これにより臭みが一切なく、淡白で上品な白身肉に育ちます。
  • 調理法: 定番の天ぷらやフライのほか、蒲焼き、たたき(なまずの身と骨を細かく叩いて味噌や薬味と混ぜて丸めた吉川の伝統料理)として市内の料理店で提供されています。
  • 現在の状況: なまず養殖を主に担うのは「農事組合法人 吉川受託協会」などの限られた事業者です。年間生産量や出荷量の具体的な推移数値については公開データが限られており未確認ですが、市内の飲食店やイベント向けに継続して供給されています。

特産品・加工品(地場産品と直売所・取扱店舗)

吉川市では、農産物やなまずの食文化を生かした多様な特産品・加工品が開発されており、地産地消の拠点も整備されています。

主な加工品・地場産品

  • なまずモチーフの銘菓・食品:
    • なまず煎餅: なまずの形を模したせんべいで、吉川米を原料に使用した香ばしい伝統品。
    • なまずまんじゅう・なまず最中・なまずサブレ: なまずの姿をかたどった和洋菓子。
    • なまずコーラ: なまずエキス(コラーゲン)を配合したご当地炭酸飲料。
  • 地酒・米加工品:
    • 純米酒「吉川ロマン」「なまずの里」: 吉川市産の米を原料として造られた地酒。
    • 吉川のしずく: 厳選された特別栽培米コシヒカリ。

直売所・主な取扱店舗

実在が確認できている主な直売所および特産品取扱店舗は以下の通りです。

  • JAさいかつ 直売所「フレッシュファーム吉川」(吉川市保): JAさいかつが運営する直売所で、地元農家が毎日出荷する吉川ねぎ、小松菜、枝豆、米(吉川のしずく)などの新鮮な農産物を直接購入できる地産地消の中心拠点です。
  • ラッピーランド(吉川市観光案内所)(JR吉川駅北口前): 吉川市観光協会が運営に関わる案内所で、なまず煎餅、なまずまんじゅう、なまずコーラなどの特産加工品や、市のイメージキャラクター「なまりん」のグッズを一堂に販売しています。
  • イベント・マルシェ: 市内で定期開催される「よしかわマルシェ」や、イオン吉川美南店などで実施される「吉川フェア」において、地元農産物や地場産品の出張販売・PRが行われています。

農業を取り巻く現状・課題

首都圏近郊に位置する吉川市の農業は、都市化の波と少子高齢化という現代的な課題に直面しつつも、持続可能な農業に向けた取り組みを進めています。

現状と課題

  1. 都市化による農地減少: 東京都心から30km圏内という立地特性から、JR武蔵野線沿線や吉川美南駅周辺などを中心に住宅地化や商業地化が進行しています。これにより、農地の宅地転用が進み、耕地面積は徐々に減少傾向にあります。
  2. 農業従事者の高齢化と後継者不足: 吉川市の農業においても経営者の高齢化が進んでおり、後継者不足から小規模農家や自給的農家における離農、遊休農地(耕作放棄地)の発生が懸念されています。

対策と取り組み

  1. 農地集積と経営体の強化(地域計画): 吉川市では「農業振興地域の整備に関する法律」に基づく整備計画や「地域計画」の策定を進めており、効率的かつ安定的な農業経営を目指す中心経営体(農業法人等)への農地集積・集約化を推進しています。農林業センサス等のデータからも、3.0ha以上の経営規模を持つ農家・法人の割合が増加傾向にあることが確認されています。
  2. 地産地消と食育の推進: 吉川市では「吉川市農産物販売マップ」を発行し、市民が庭先直売所や農園で直接購入しやすい仕組みを提供しています。また、市内の小中学校の学校給食に地元産の米や吉川ねぎ、小松菜を導入する取り組みが行われており、子供たちへの食育と地元農業の理解促進が図られています。

都市と自然が調和する吉川市において、早稲米となまずの歴史伝統を守りつつ、高付加価値な吉川ねぎや安全な米づくりを通じて、持続可能な近郊農業の形が模索されています。


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